【Let’s Discuss!】No.9

コラム

みなさんと語り合いたいあれこれ、今週から何回かに分けて“人間のニーズ”というものにアプローチしてみたいと思います。

感情の動物と言われる人間。その感情の裏にはニーズが存在しています。

ニーズとは、日本語にするとどうなるのでしょう?

ランダムハウス英和大辞典によると「必要・要求・不足の意の一般語で、緊急性はそれほど強くないが、感情に訴える力が強い」とあります。

また、研究社の新英和大辞典によると「〚心理〛欲求・要求⦅生理的・心理的に充足・満足が得られていない状態⦆」と説明されています。

そう、何か足りていないものやことを求めるのがニーズと言えるでしょうか。

そしてそのニーズが何であれ、満たされているときには人間はポジティブな感情をいだき、満たされないときにはネガティブな感情が湧いてくる、と言えるでしょう。

私たちはニーズについて考察する際に、よく知られているアブラハム・マズロー欲求階層論をベースとしています。

これは英語で“Hierarchy of needs”なので、NVPのテキストでは“欲求”ではなく、“ニーズ”と表記しています。

ですのでここではニーズという言葉を使わせていただきます。

ここでマズローという人物に少し触れてみたいと思います。

マズローはアメリカの心理学者で、1908年にニューヨーク・ブルックリン地区のスラム街で生を受けたユダヤ人です。彼は経済的にも、また人種面でも恵まれない幼少時代を過ごしたそうです。

そんなマズローは大学で心理学を学び、博士号を取得して大学教授を勤めました。

そんな中、彼を大きく動かす出来事、第二次世界大戦が勃発します。

大戦がはじまったアメリカでマズローは華やかに行進する軍隊のパレードを目にし、なぜこのような戦いが行われるのだろう、と悲嘆にくれたといいます。

このときに彼はこれまでの研究を放棄し、平和を建設するための心理学を築き上げようと決心したそうです。

「私は、人間が偏見や憎しみや戦争よりも、もっと偉大な能力を持つことを立証したいと思った」と述べた記録が残されています。

彼の創始した心理学は、『人間主義心理学(ヒューマニスティック心理学)』と呼ばれています。

これは当時の心理学において革命的なものでした。

それまでの心理学は、ワトソンに代表される人間の顕在的な行動のみを研究・分析した行動主義心理学と呼ばれるものと、もうひとつはフロイトに代表される精神分析学で、病人の心理過程を研究・分析することで健康な人間にも当てはめる、というものでした。

人間主義心理学(ヒューマニスティック心理学)』というものは、説明が難しいのですが、人間そのものを尊重しよう、という考えに則っていると思います。

マズローは、人間は他の動物と違って本来、価値を内部に備えていて、本質的にもしくは本能的に上の価値へ上の価値へとニーズを発展させ、自己実現を追求しようとする傾向をもつ、と仮定し、その立場から研究を進めていきました。

さて、マズローが展開した欲求階層論とはどんなものなのか、見てみましょう。

これは自己実現理論とも呼ばれるもので、マズローが「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定し、人間のニーズには五段階の階層(マズローは晩年に五段階の上にさらにもう一つの段階がある、と発表しています)がある、と考えたものです。

この五段階には低次のものから一番高次のものまで、ヒエラルキーがあるとされています。

それは低次のものから順番に生理的ニーズ安全ニーズ愛・帰属ニーズ自己肯定(セルフ・エスティーム)ニーズ、そして自己実現ニーズです。

この五つをピラミッド状に積み上げたのが写真にある図形ですね。

これは人間が持つ多様なニーズがわかりやすく整理され全体を見渡すことができて、とても分かりやすいものです。

また、ニーズが下から上にのぼっていくかたちの階層を作っているので、人間の成長・発達ともかかわりが出てきます。

あるいはニーズが成長や発達を後押しする働きをする、とも言えますね。

私たちが第四段階にあたる自己肯定(セルフ・エスティーム)ニーズを大切なテーマの一つとして掲げている理由はここにあるのです。

さてここで欲求階層論の基本的な考え方を見てみます。

第一に、マズローは低次なニーズほど人間にとって強力で、かつ優先的だと言います。

たとえばすべてのニーズが満たされなかったとしましょう。そのとき、まず優先して求められる最も強いニーズ、それは第一段階の生理的ニーズです。

生理的ニーズは生命を保つためのいわば本能的なニーズといえるもので、呼吸、水や食べ物、睡眠などなどに対するもの。

私たちの生活において、この生理的ニーズが満たされていない、と感じることはほとんどないと言えますが、世界を見渡すとまだまだこの第一段階のニーズが満たされていない環境に置かれている人々がいることを忘れてはいけないですよね。

この第一段階のニーズが満たされると、人間には第二段階、第三段階…と次の段階のニーズが現れ、そのニーズがとってかわって私たちの意識や行動を支配すると言います。

つまり高次のニーズほど、それが現れるまでに多くの優勢な低次ニーズの満足が必要とされる、ということになるのですね。

つぎに、この理論では特定のニーズが100パーセント満たされて初めて、次の段階のニーズが現れる、というものではないと言います。

どんなニーズも、完全に満たされることなどないことは自明の理ですよね。

マズローは、あるニーズがかなり満たされれば(そのニーズはなおも求め続けられるけれども)、人間の関心は新しい次の段階のニーズに向かい、それを満たすことに全力が注がれる、といいます。

ここで第二段階の、安全ニーズを見てみます。

これは文字通り、基本にあるのは身体の安全です。

そこには物理的な安全に加えて健康状態を維持することであったり、経済的な安定や良い暮らしの水準の確保、事故の防止、家族の安全…と、つまり人間がいだく不安をすべて取り除くこと、と言い換えられるかもしれません。

これを100パーセント満たすことなど、はっきり言って不可能に近いですよね。

私たちは日々、行動しています。これは安全ニーズが100パーセント満たされていないにもかかわらず、自分が安全に行動できる、と判断しているからです。

つまり安全ニーズはかなり満たされている、だから私たちは次の愛・帰属ニーズに夢中になれるというわけです。

三っつめに、次の段階のニーズに意識が支配されたときには、その前に満たされたニーズに対する意識は薄れ始め、やがて意識の中から消え去ったり、行動に影響を与えなくなる、といいます。

そしてそのニーズが再び満たされなくなるまでは、気配を消しているそうです。

たとえば第三段階の、愛・帰属ニーズを見てみましょう。

これは自分以外の誰かに仲間として受け入れられたい、認められたい、自分の居場所を持っていたいというニーズ

人間は一人では生きていけないですよね。それを自覚し始めるとともに現れてくるニーズです。

孤独を感じたり、人に拒否されることに対する恐怖や不安を取り除きたいという願望、と言い換えることができるかもしれません。

人間の成長の過程でいえば、幼児はまずは家族の中に自分の居場所があると感じて、このニーズは満たされるのでしょう。

そして、家族を離れて子どもたちの社会の中で生きるようになると、まずは友達がいることで愛・帰属のニーズは満たされていきます。 

そのようにしてある程度、このニーズが満たされていると確信できるようになると、全神経が次のニーズに向けられていくのです。

それが第四の自己肯定(セルフ・エスティーム)ニーズです。

少し長くなったので、今回はこのあたりでいったん終わりとしますね。

次回、自己肯定(セルフ・エスティーム)ニーズとはどんなものか、なぜNVPセルフ・エスティームをテーマの一つにしているのか、についてお話しようと思います。

それを読めば、私たちのプログラム内容がいかに子どもや若者たちの成長過程において重要な意味を持つものなのかをご理解いただけるはず。

ぜひ読んでくださいね!!

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